ヘヴンズ・ドアー73「テロル」

 はい! 新章突入です!

 70話以降はブログに、70話以前はサイト http://zankokusyosan.moe.in/  にあります! 章の始めからならどの章からでもご覧になれますので、お気軽にご覧いただけると幸いです!


 あらすじ 世界が滅亡した後、新たなる世界の覇権を握るため各国勢力が争う「天上の戦場」ヴァルハラ。戦うのは現世で死んだ者。
 ヴァルハラの入口にて仲介屋の店「へヴンズ・ドアー」に務める依子、紅玉、エミリー。
 国を裏切った罪で、ヴァルハラを統べる神、オーディンに紅玉の家族は永久に幽閉されてしまう。店に帰った紅玉は、店長のサマンサが人間ではなくヴァルキュリーである事、このヴァルハラはオーディンのゲームであるを看破するが、逆に自分が阿片戦争においてイギリスのテロリストとして活動していた事を他の店員に知らされてしまう。しかし、依子は、オーディンに勝つと宣戦する。

 登場人物ざっと紹介

 飯塚依子:日本人。へヴンズ・ドアーの店員。怪力の能力を持つ大和撫子。愛銃はBAR。
 張紅玉:中国人。へヴンズ・ドアーの店員。匕首と針を武器にする。策士で守銭奴。
 エミリー・カーター:アメリカ人。へヴンズ・ドアーの店員。超精密射撃の能力を持つ。
 ジャック・ザ・リッパー:イギリス出身。陰気な青年のの姿をしているが、正体はジオラマである。
 飯塚幾之助:日本人。依子の血のつながらない兄。日本武士団家老。重度のオタク。
 ウラジーミル:ソ連人(ソ連内ではロシア人)ソ連KGB大尉。先日、長年の部下を失ったばかり。

 いりますかね? このあらすじと登場人物紹介。まあ、最初は初登場の人物から始まるんですけど。
 では、「続きを読む」より新章ベルリンの壁編 ヘヴンズ・ドアー73話「テロル」ご覧ください!

ブログ拍手ありがとうございました!
理人さん>出勤お疲れ様でした。十二国記はいつ読み終われるやら……読む本が溜まっています。でも、面白そうです。
二回言わなくても……。
拳銃を……。なんていうか、親子の交流=ナイフ実践ですか。
宗教戦争を始めたいのでしょうか……ポジティブさん

「ハインリヒ、あれは何だい?」
 金髪の女騎士団長に、副騎士団長は溜息交じりに答える。
「あれはベルリンの壁だ。あの巨大な壁から東側が、東ドイツと呼ばれ、実質ソ連の支配下にある。姉さん、少しは常識というものを―」
「素晴らしい博識さだハインリヒ! 君を弟に持てた事を、心から神に感謝する!」
「……」
 こんな台詞を心から言うクリスティーナには、黙り込む以外できないのである。

 三日前。

「アントン、今どこにいる?」
 顎鬚を生やした男が、公衆電話で小声で話す。
『挙動不審だと疑われますよ、ラースロー』
「誰、が、だ! っつーかホントに何処にいんのお前。此処いっぱい人いるぞ。待ち合わせに向いてねえだろ、如何考えても!」
『なあに、すぐに会えます。あなたはこの電話を切ると同時に能力を発動し、一目散に逃げねばならなくなる」
「はあ!?」
『そして私があなたを見つけるのは酷く容易だ。何せ、あなたしか人間は残らない』
「おい! アントン! まさか―」
 優雅な相手は一方的に電話を切った。
「クソッ!」
 ラースローは周囲を見渡した。
 既に前兆があった。
 建物の壁ががギシギシと嫌な音を立てている。
「あんのバカ!」
 同時だった。
 コンクリート製の分厚い壁は、ゆっくりと地面から浮き上がり、床がついで剥がれてめくれ上がる。
 ラースローは片腕を降り、跳ねる。
 次の瞬間、銀色の馬が出現した。
 剣のような硬い鋼の体が大きく盛り上がった馬だ。
 出来立てのステーションに突如現れた騎馬兵と、崩壊する建物。全てが混乱の元だった。
 鋼の馬は勇ましき嘶きを上げると、浮くのを停止した壁に突撃する。
 ついで爆発。
 建物内に居た者は、鋼の馬が壁に体当たりすると同時に爆発し、破壊された壁から直前に飛び降りたラースローが脱出したのを目撃しただろう。
 しかし、ラースローの脱出と共に、”浮く壁”という現象は消失した。
 すなわち、大地を震わせ崩れてきた東ドイツの誇りたるステーションに、中にいた全員が押し潰されたのだ。

 同時刻日本、ソビエト国境付近。

 灯りのない夜戦は不可能だ。
 しかし、この二人なら可能だ。
 矛盾を証明するのは、辺りに転がる四つの死体である。
 生きているのは、日本武士団所属飯塚幾之助。ソビエト連邦KGB所属ウラジーミル・グリゴーリビッチ・グリーシャ。
 死んでいるのは、日本武士団から二人、ソビエトKGBから二人。
 生者の距離は2メートル程度から0ミリ。
 影も見えぬ二人が交差し、また離れる。
 それは飯塚幾之助の方が確実に速く、事実、彼が握る白刃は確実にウラジーミルに傷を作っている。
 その傷は瞬く間に再生し、再生を待たず拳を幾之助に向って繰り出している。
 外れた拳が、幾之助の背後の小さな崖を砕いた。化石が出そうな程硬質な壁は、人の頭ほどの大きさに凹んだ。
 当たれば肉体がこのようになる拳を避けつつ斬りかかる。
 声は無い。
 相手の息遣いと、殺気、物音。
 それのみで二人は戦っていた。
 常人ではない戦い。
 それが突如破られた。
「Да」(ダー)
 僅かな機械音と、何かに答えるウラジーミルの声。
 次の瞬間、戦いは止んだ。
 ウラジーミルが逃走したのだ。
 当然、幾之助は追走にかかった。
 しかし、足止めを食らわされた。
 手榴弾を投げつけられたのだ。
 爆発を足止めに使う。否、足止めにしか使えない。
 実力の怪物は笑みを漏らした。
「ふ……ふふふ……ふふふふふふふ」
 溢れ切れぬ高揚が溢れ出る。
「あの人、また、強くなっている……」
 飯塚幾之助は強い男を殺したい。
 己の刃によって、斬り裂きたい。
 そして、自分も殺されたい。
 死に一番近いところで、限界になりたい。
 飯塚幾之助は剣士ではない。
 剣豪という名の雄である。

 飯塚幾之助が切り結んでいる頃。

「―以上で、話は終わりだ」
 ジャックはエミリーより詳細を聞いていた。
「そうか」
「リアクションが薄いな、おい」
「いや……」
 いつもの陰気な印象を与える自覚がある顔には、変化が出ていない。
「その……だ。薄ら感づいてはいたんだ」
「Oh! どういう意味だ?」
 アメリカ娘らしいリアクションに、考えながら答える。
「その、だ。戦士が現れる地域が、あまりに偏っていると思っていた」
「ん?」
「このヴァルハラに来る条件は、人を殺す事を……なんというか、抵抗が無い人間が死んだら、だろう。それなら分かるんだ。現世よりだいぶ小さいとはいえ、確かに世界各国にヴァルコラキとしてヴァルハラに送られている」
「Yes、ぶっちゃけ一般兵なら世界中にいるな。だが、戦士は……飛び抜けて強い奴は確かに―」
「ああ、ヨーロッパに偏っているんだ。俺が出会っただけでも、ヨーロッパの戦士は大体二十人程度。―まあ、俺が知らない戦士もいるだろうが。それに比べて、中国はあんなに大規模なのに、二人程度、しかし、日本人の戦士は既に三人会っている。日本のような小さく人口の少ない国なのに、だ。北米には六人いると確認。こちらは、逆にあんなに広く人口も多いのに日本の倍だ。さらに、南米、アフリカ、東南アジアは全く出会っていない」
「そうだな。あたしも知らねえ」
「俺が疑問に思っていたのは、北欧諸国だ。ヨーロッパの中でも戦士が集中して存在している。死んだアールネも入れれば、フィンランド、スウェーデン、デンマーク、アイスランド。ノルウェーを除けば全ての国に一人戦士が存在する。完全に集中している。これをずっと疑問に思っていた」
「お前……そんなん調べてたのかよ」
「無職だからな。話を戻そう。この戦士の集中が、オーディンの手によるものだとすれば納得がいくんだ」
「この世界の主、オーディンは―」
「そう、北欧神話の神だ。つまり、オーディンはこの世界でどの国が新たな世界の覇権を握るか、ゲームをしている。その際、自分に取って馴染みがある国を、贔屓しているんじゃないかと思う」
「待てよ! それじゃ、最初から新しい世界の覇権の主は決まってるのか!?」
「それはない。それじゃ、ゲームとして面白くないからだ。ラストが見えているゲームは面白くない。オーディンは純粋に楽しむ為にやっている、それが分かるのが、日本にも集中している事だ。俺達外国人が、日本と聞いて何が浮かぶ?」
「まあ、ぱっとだと、寿司、侍、芸者、忍者、腹切り、神風……」
「そうだ。日本風に言えば、キャラが映えるんだ。個性的なキャラクターが出ている方が、ゲームは面白い。日本人というのは、その点に秀でている」
「つまり」
「現世で死んだ人間が、ヴァルコラキになるか戦士になるかは、オーディンの気分次第ということだ。その結論に至る事で、俺はこの世界がオーディンのゲームだと納得する」
 長い話になったな、と頷く。
「で、それは、お前は面白いか?」
 ふ、とようやくジャックは笑みを漏らした。
「人生を玩具にされて、楽しい訳がない。オーディンには、嫌な思いをして貰いたい。だが、ゲームがどうすれば終了するのか分からない以上、今は目の前の毎日を生きていくしかない。それが」
 僅かに笑う。
「俺には幸福なんだ」
 エミリーは軽快な笑い声を上げた。
「同感だ」
 笑みがまた消える。
「確かなことは、オーディンは不真面目だという事だ」
「不真面目?」
「調べれば解る事を調べないんだから。幾ら遠くたって、国がどんなものかくらい調べればすぐ分かる」
「Oh! 理解できたぜジャック」
「ああ、エミリー。だが、言わせてくれ」
 ぐ、と握りこぶしを作る。
「不真面目な奴には、真面目にやれば勝てる」
 ふひ、とエミリーはまた笑った。
「それより紅玉は大丈夫か? 家族を全て失って―」
「ああ、依子がついてるからな。あいつは何か良い事言う訳じゃねえし、サイパンに生きる意味ってのを落っことしちまってるが―。話の聞き方が上手い。聞いてほしい所を質問し、後はただ静かに微笑みながら相槌を打つ。お前が依子に惚れたのも、そこだろう」
「!」
「あいつの効果はすげえぞ、あたしと紅玉はあいつが来るまで、ただの同僚だったんだからな。まあ、聞いてくれよ、大した話じゃねえが、出会った時の話をさ」

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浮草堂美奈

Author:浮草堂美奈
小説書きが何か日々喋ってます
サイト キクムラサキ式
サイトに小説掲載中。
同人誌即売会にも、ダークファンタジー小説を引っ提げ出没します。

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