読書はたのし「コナン・ドイル シャーロックホームズの代理人」(ヘスキス・ピアソン 植村昌夫訳)
『I LOVE Sherlock・Holmes&Halley・Potter』と、左手に書き、ヒースロー空港に降り立った。
と、いう出だしまで考えていたのだが……。
近頃の騒動で、イギリスどころか奈良県かから出られなくなった。
突然だがビラを失礼する。
生活費ニ告グ
一、今カラデモ遅クナイカラ旅費ヘ帰レ
二、抵抗スル金ハ全部必要デアルカラ号泣スル
三、オ前タチヲ貯メタ一年ハ米穀とナルノデ美奈泣イテオルゾ
四月二十四日 浮草堂家計部
そういうわけだ。コナン・ドイルの話をするしかない。
そんなこたあねえ? うるせえ。こちとら左手に書く用のマッキーまで準備してたんだ。
今月の1冊は「コナン・ドイル シャーロックホームズの代理人」(ヘスキス・ピアソン 植村昌夫訳)だ。笑うな。マッキーが火を吹くぞ。
アーサー・コナン・ドイル先生の伝記である。たいていの伝記がそうであるように、鵜呑みにしてはいけない。
さも「当然知ってますよ」っぽく書いたが、作中に訳者植村先生からの「当時はご子息がご存命だったから、書けなかったエピソードがあるよ」と記載されていただけである。
つまらん見栄を張って申し訳ない。
お詫びに書けなかったエピソードを少しご紹介する。
医大生のアーサー君が帰省したら、ママがアーサー君とあんまり変わらない年齢の不倫相手と同居してたよ。
それは……うん……キツい……しょうがない……。ご子息からすればお祖母ちゃんの不倫ネタだもんな……。6歳上の男とママが不倫同居してたら、若造はひいちゃうよな……。しかも親父はアル中で入院して家長やらなくちゃいけなくなったのか……。アーサーくんかわいそうだな……。うちくる? ごはんあるよ?
このように、道に落ちている若造や少年を拾ってきてしまう癖(ヘキ)がある女は多い。
「道に落ちている」の定義は詳細に書こう。30秒で頭にたたき込め。
いつも一所懸命だが報われづらく、行動力はあるが生活力はなく、家庭環境はよろしからず、素直で騙されやすい25歳以下のイケメンのことを指す。
ご安心を。いかなるイケメンよりわたくしの方が生活力がない。
よって『決行』はできない。妄想でどうにかする他ない。
迅速なご理解を感謝する。吐瀉物を片付けたら、次の文を反射神経に刻み込んでいただきたい。
コナン・ドイル先生は道に落ちている。
特に、素直で騙されやすいに特化している。
ホームズの作者がそんなわけあるか?
反論ごもっともだ。
それでは、若き日のコナン・ドイル先生のエピソードを、この本から抜き取り説明させていただこう。
ちょっ逃げないで。怖くないから。大丈夫だから。
アーサー・コナン・ドイルは、1859年5月22日に8人兄弟の長男として生まれた。所得税課税最低限以下の経済状況だったそうだ。
後に不倫からの家出をキメるロックなカーチャンメアリであったが、アーサーの教育には余念がない母でもあった。対して父のチャールズは『芸術家気質』という「あっ(察し)」な表現をされている。
現代日本でもボンボンでない医者はブラック・ジョッブだ。
19世紀英国でもやはりブラック・ジョッブ。
若アーサー・コナン・ドイル、弟妹抱えて困窮の極みである。
ほら、条件は揃っているだろう。
そしてここからが「もー♡ほんっとこの男は道に落ちてるんだから♡」エピソードだ。
貧乏。兄弟多し。長男。ロックなカーチャン。あっ(察し)な父。ピンチだ。なんとかして開業しなくては。
そんなとき、大学の同級生より「スグコイオ前ガ必要」との電報が届いた。
やったぞ。仕事の斡旋だ!
若コナン・ドイル、イチもニもなくブリストルに飛んだ。
行動力があるだろう?
しかしである。この同級生バッド氏がなかなかにヤバイ。
学生時代に酔っ払って駅員を殴り逮捕されている。
と、いうのが奇行と蛮行の序の口レベルの男。こいつだけ世界観マカロニウェスタン。
学生時代のコナン・ドイルとは仲がよかったが……。
読者は思う。
フラグがでけえ。
あなたは酔っ払って人を殴ったことがあるだろうか? あったらお答えにならないでほしい。普通に犯罪である。関わらないでほしい。
普通に犯罪だが、バッド氏はシラフでもしょっちゅう殴っている。大学の講義中ですら殴っている。
19世紀に駆け落ち事件を起こした結果、髪は虹色だ。20世紀の魔法少女か。
ひっきりなしに「俺の考えた大もうけアイディア」をしゃべり続け、翌日には忘れている。
どう考えてもご自宅は危険地帯である。
壁に弾痕でイニシャルとか書かれているかもしれない。コカインやモルヒネ(嗜好品)が転がってるかもしれない。……それはホームズがやってたことだったな。
が、コナン・ドイル先生。まだ引き返せるギリギリスポット(玄関)で、「立派な家だなあ。よかったー、仕事が見つかったー」などと思っている。
ダメだ……! 急ぎ保護しないと……!
駆けつけようとする読者をよそに、バッド氏は口を開く。
「ドイル、お前にだけは打ち明けるが、俺はもう破産だ」
フラグ回収ーッ!
「お前のアドバイスがほしい」
黙って逃げてアーサー君! 裏に車を回すわ!
どの女か知らないが、回収した女がいたようで、このときはブリュッセルを発てている。(カーチェイスしたり撃ち合いしたり爆発したりしている女のことはカウントしない)
無事にではない。回収前にバッド氏と殴り合っている
この殴り合いがなぜ起こったのかはわからない。
仲良く夕食とお酒を楽しんでいたら、ボクシングに誘われて殴り合いに発展したらしい。
『ドイルはボクシングとなるとどうしても誘惑に勝てず、グローブをはめた』(本文抜粋)
21世紀の大和撫子的には……。
酔っ払って食卓でやるボクシングと、ただの殴り合いの違いもわからない……。
コナン・ドイルはスポーツマンで、ことにボクシングを好んだそうだが……。
ツラが痣だらけの医者にかかりたがる患者はいねえだろう、とは思う。
ホームズがボクシングとバリツ(日本の武術……という創作武術。たぶんただの暴力)の使い手だという設定には役立ったろうが……。
なんで借金を断ろうとしたら、「お前に貸す金なんてねえのは知ってるよバカ」とか罵るヤツの、ボクシングに乗っちゃうんだ。
むしろ、なんで一緒に飲むんだ。
窓の外を見ろ! 回収に駆けつける女が爆発を起こしてるだろ!
この二人の関係は、長くなるので結果だけ記す。
病院を共同経営したが、ロックカーチャンからのあんな子と遊んじゃいけませんレターを盗み見られ、喧嘩別れした。
詳細に経緯を記せないのが残念である。
回収レディースによってプリマスが爆破されるのを防ぐためだ。どうかご容赦願いたい。
このように道に落ちている若造であったコナン・ドイル先生。
意外に感じる方が多いだろう。
なんせ世界一の名探偵、シャーロック・ホームズの生みの親である。
わたくしも、理知的かつ冷静な人物のイメージがあった。
この「コナン・ドイル シャーロックホームズの代理人」で、イメージは雲散霧消した。
ホームズシリーズで「奇妙に思いましたがどうしても気になってしまい……」で、えらい目に遭う人だ、この人。
若いころだけではない。
歳食っても道に落ちている。
いや。
生涯道に落ちている!
いくつになっても素直で騙されやすい!
戦闘を近くで見たいと戦争特派員に応募し!
選挙で正直すぎて落選し!
心霊主義にハマって金と健康を溶かし!
あげくホームズシリーズは「書くのがラクだったから」自身は評価しない!
やはり奈良にくすぶっている場合ではない。
急ぎ、道に落ちているコナン・ドイル先生を拾いに行かねばならぬ。
心配ご無用。庭に竹製のニンバス2000があったのを思い出した。
それでは! 待っててアーサーくん!
道に落ちている(以下略)についてこんなに語ってしまう「コナン・ドイル シャーロックホームズの代理人」いかが?
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