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読書はたのし「全訳 源氏物語」

 

   ものになったことは何一つない。
 読むことと書くことだけが続いている。
 だから連載という形をとり、本について書いていこうとしている。面白かった本をオススメしていこうとしている。
 魂の欠片をご笑覧されたし。

「全訳 源氏物語」
 著紫式部 現代語訳与謝野晶子


 源氏物語を薦めることは難しい。
 ガンダムを薦めろと言われたら、たいていのガンヲタは困るだろう。なぜ突然ガンダムかって? 困る理由がかぶっているから。
 まず、長い。ついで、登場人物が多い。三番目に専門用語(歴史用語)が多い。
 何より困るのは「日本人なら誰でも知っている名作」であることだと思う。
「名作なら薦めやすいんじゃね?」と、いうご意見にはこう返したい。
「名作だと知っているのに読んで(観て)いない。そこまで読む(観る)気がしないのだ」
 そう。
 歴史に残る名作とは、歴史に残る鉄板のハズレなし作品だ。読む気があるなら、薦められる前に読んでいる。それを読んでいないというのは、鉄をブチ抜く勢いで興味がないのである。わたくしもガンダムは観ていないし、今後も絶対に観ない。
 こういった鉄の意志の元は、上記三点の理由がほとんどだ。覆すことが不可能な理由三女神がそろってしまっている。
 その上、他の理由も多々ある。それだけ知名度が高いのだ。わたくしの場合「元彼(遠恋)に、爪に火をともすように交通費を貯めて会いに行ったら、強制的にガンダムUC自宅鑑賞会を始めた。そして第二話までの段階で全ストーリーをネタバレした」という理由で拒絶している。
 ガンダムは一ミリも悪くない。むしろ、名作だからこそ、ネタバレした元彼のとばっちりを食らっている。こういう理屈を超えた私怨が一番くつがえらない。
 
 なら、なぜ最初に「源氏物語」を?
 思い出していただきたい。これは本をオススメする連載である。
 オススメされた本がつまらなかったら、文章いかんに関わらずおしまいである。
 が、それは読者の感性という、振れ幅がジャイアントスイングな基準値なのだ。
 わたくしが「おもしろい!」と思っても「否!」な人も多い。それが読書。ヤバイ連載を始めてしまったな。
 博打は嫌いだ。せめて初手だけでも手堅くいきたい。源氏物語なら、「こんなものを紹介する感性死者の連載」と、判断する人はいまい。「千年のベストセラーだけど、ノットマイマッチ」で済むはずだ。
 また、この文章を読んだ方が「源氏物語」が読まれなくても、ダメージは少ない。なんせわたくしもガンダムは観ないのだから。
 現代語訳は多々あるが、ここでは与謝野晶子訳を紹介したい。両先生のイメージがかぶるからである。お二人とも「心まで鋼鉄に武装するババア」だ。
 イメージが共通するなら相性はよい。帝都も守るに超したことはない。

 さて、あらすじのターンに入ろう。
 時は平安。光源氏が、さまざまな女性と恋愛する話である。
 今、だいたいの読者が「知っとるわ」とつっこんだと思う。思うけれども、ネタバレしないあらすじを書くとこれだけなのだ。
 千年ベストセラーであり続けるためには、研ぎ澄まされたシンプルイズベストさが必要なのだろう。くっ、書いているわたくしが被弾してしまった。その通り。シンプルかつ各回キリがよいため、長いわりにサクサク読めてしまう(シャツを裂いて止血しつつ)
「ツラがいいだけの女たらしに魅力なんかない」と、感じる方もいるだろう。中二病をこじらせて夏休みに原文読破をした浮草堂美奈(13)も思った。
 お待ちください。これは二次元です。源氏物語は二次元です。二次元の男が女にモテてるんです。どこが魅力ってそりゃあ……。
 ツラがいいんだよおおッ!
「なぜモテる?」に対するアンサーとして、ここまで強力なものがあるか。おい、聞いているのか、そこの校則通りの芋中二病小娘!二次元のツラのよさの威力をたたき込んでやる!
 日本中の電力を集めた陽電子砲の一撃と同威力だ!
 たとえ、その一撃に「男はツラだけじゃない…ッ!」と耐えられたとしても……。
 帝の次男、コミュ強、金持ち、和歌音楽絵画に秀でている、上流貴族などという「ハイスペック」という第二撃が襲ってくる!
 この男の魅力に耐えきれる読者はおるまい。ロックオンイコール撃墜だ!
 こいつが惚れるのだから、女の方もすごい。「どのハイスペ美女が好みですか?」である。誰もがなにがしかに秀でている。よりどりみどりの才媛ぞろいだ。
 では、ブスの話をしよう。
 いるんである。ブスも。
 百花繚乱たる源氏物語の女たちの中にも、燦然たるブスがいる。せっかくの機会だ。ブスの話をしよう。
 名前は末摘花。
 源氏物語に登場する名前は職業orあだ名である。
 その中で唯一、悪口がそのままあだ名になっているのが、この末摘花嬢である。
 紫式部先生、ひどい。
 二人の出会いは、光源氏が「身寄りを亡くした女がいる」と小耳にはさんだので口説きにきた、から始まる。
 口説くのに事前情報がそれだけ?
 甘い!
 それぐらいあれば多い方なのが、光源氏という男だ!
 いい女の気配を感じただけで、前生の縁があると口説く! 光源氏の定番モテテク前生の縁! 何回転生しているつもりだ貴様!
 そういうわけで、いつもより事前情報多めで口説きに来た。しゃれにならないほど貧乏な女だった。手始めに衣食住を貢ぐことにした。
 手始めに貢ぐものが衣食住! 千年のスパダリは格が違う。なんせ時代は平安だ。女はみんな御簾の中にいるのだ。まだ顔すら見ていないのだ。なのに衣食住を貢ぐ! これがスパダリの始祖光源氏! アンタが帝にならなくてよかった!
 ひたすら衣食住を貢ぎ続け、ようやく顔が見られたら――。
 ブスだった。
 これはツラがイマイチな女というわけではない。ツラはイマイチだが癒やし系枠なら別にいる。
 末摘花はツラも性格も行動も。
 すべてブスなのである。
 紫式部先生、恐ろしすぎる。
 単純に「ブスを書いてくれ」だけのオーダーなら、わたくしでも書けるだろう。
 しかし、「千年後もブスとして通用するブスを書いてくれ」と言われたら。
 昭和と令和の間30年ですら、あらゆる価値観が変化しているのに。
 無理だ! 土下座して靴をなめてでも勘弁してもらう!
 紫式部、格が、違う。
 見事。
 千年たゆまぬブスを書いた!
 光源氏やその女たちをはじめ、源氏物語の美形は全員ふわっとした容姿説明である。
 雰囲気が気に入ったら、読者はそれぞれ理想の推し容姿を想像できるのだ。結果、千年の美形価値観の変化にも対応できている。
 反動のように、末摘花の容姿についてはとても細かい描写がある。末摘花の由来からして、赤くて変な形の鼻である。悪口だ。訴えられたら負ける。
 性格もブスである。
 さっきツラがいいのはヤシマ作戦と同程度の魅力と言ったばかりだが、交際するならツラより性格が重要となる。どうしてもなる。
 重要なので、性格はさらにブスである。
 悪いのではない。善良に心身ともにブスなのだ。ブスに気合いを入れすぎだ。流石、心まで鋼鉄に武装するババア。容赦ない。
 末摘花は気が弱く、ネクラで、行動全て古くさく、そのくせ頑固なのだ。
 これで容姿が美少女なら、打ち切り漫画のテンプレヒロインだろう。そこは千年のベストセラー、きっちりブスである。容姿のアカンところの描写がとても細かい。それを超えて性格がアカン。
 光源氏に文(手紙)も返せない。ツンしているのではない。返事をする勇気が出ないのだ。
 家のものたちが必死に励ましても頑固に勇気を出さない。光源氏が見捨てたら食うにも困るのに。そういうところが頑固だアカン。
 やっと文を返したと思ったら、和歌文字文章字紙すべて化石センスだった。源氏物語において文のセンスは戦力とイコールである。
 光源氏がガンダムUCだとしたら、末摘花はたまごっちという戦力差だ。ヤバイ。
 文だけでなく、全行動がこんなカンジなのだ。末摘花は。ヤバすぎる。
 もし、光源氏が「こんなにいい女はいない」と思って恋愛をしていたら、源氏物語は平安時代と同時に終了していただろう。
 光源氏本人が「ヤベエのひっかけたな……」と思いながら恋愛しているから千年のベストセラーなのだ。
 みすぼらしい野良犬に餌をやりに、橋の下に通っているカンジ。
 うまいものを食べさせても、洗っても、服を着せても。何をやってもみすぼらしい。でも、とてもとても懐いている犬。そういう野良犬を蹴ったら、優雅なコリーを蹴るよりド外道に見えてしまうものだ。
 光源氏は犬を蹴るのが趣味の男ではない。その象徴がみすぼらしい野良犬である。
 こいつ何やっても汚ぇな。でも、ほっとくのもアレだし……。
 ブスだからこそ、末摘花は光源氏の女たちの中でもっとも捨てられない女なのである。
 光源氏は末摘花を捨てないから、光の君たりえるのだ。
 一人のブスだけでここまで語れる。
 源氏物語、いかが?

次回更新 12月27日(金)


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