読書はたのし「人間失格」(太宰治)
「この小説は自分のことを書いている」
中高生のころ、そういう気持ちになったと思う。陽キャは失せろ。
厨二病のテンプレエピソードである。
厨二病とは恐ろしいもので、三十路になると闘病の気力すら失せ。
「気に入らない。全部書き直す」とかやっている自分を「わ、これ、庵野監督みたーい」と。
我病む。故に我あり状態になってしまうのである。
浮草堂美奈33歳。こちらは現在第二稿。宜しく(あえて漢字)。
と、いうわけで最終回、「人間失格」(太宰治)である。
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これまで「コラム」でごり押ししていたが、最終回くらい正直に申し上げよう。
この「読書はたのし」は、本がおもしろすぎて度々正気を失う実況文章。
最終回は厨二病限界値突破を、正気に戻すリハビリテーションである。
だいたい太宰先生がよくない。
「これは自分のことを書いている」と、思わせてしまうのが特技の男なのだ。
中高生なんぞ引っかかって当然の男。
会ったこともないのに「あの男」とか呼んでしまう男だ。
わたくしは三十路だが。
その……、厨二病であるのは同じだから……。
違うのは人生の長さである(キリッ)。
中高生が「これは自分のことを書いている」と思っても、具体的な末路がありありと浮かびはしない。なんとなく20代で死ぬ気になっている。
しかし三十路は違う!
「これは自分のことを書いている」と思った瞬間。
まず「面接までたどり着けない就活」「生活保護叩き」「5080問題」「老後破産」などが、走馬灯のようによぎり。
ついで「3週間に1度はドトールに行く古希」など、明確な未来の夢を思い。
冷や汗をダラダラ流し、主人公と自分の違う点を必死に探す。
ウォーリーがいなくても探し出す勢いで探す。
主人公葉蔵に、完全に共感できる。
本物の「学生時代だけしかできないこと」である。
学生時代が楽しかった勢が言う「学生時代だけしか~」は、たいてい本人の性格の問題だが……。
これはマジだ。今のうちだけだ。しといた方がいい。今のうちしか許されない。大人になってもやってたらヤバい。マジでヤバい。
どのようにヤバいか見てみよう。
まずは少年時代。
人間の営みがわからない。ただひたすらに本当の自分を隠し。道化を演じる少年。
この姿に「そう、私の本当の姿なんて誰もしらない……」と思ってしまいがちである。
「いつもお調子者で周囲を笑わせる私……。実際は闇が深い……」
目を覚ませ太宰マジックだ!
この本を読んでいると、本当にそういう気になる。
自分はいつも仮面をかぶって生きている気になる!
なるだけだ!
この少年期の主人公、道化を見破られたのはわずか1回! それ以外はすべてウケている!
それに比べて自分はどうか!?
スカイプ通話会に参加した夜数える、ウケた数とスベった数。後者の方が多いだろう!
さらにわたくし(三十路厨二病)を客観的に見ろ!
「今回はあらすじなくて大丈夫だろー。たぶんだいたいの人は読んでるし。楽ちん楽ちん」
このウキウキ女の闇、深いと思うか!?
むしろ知恵が浅いだろう!
葉蔵のハイスペックに気づく。
大人の階段第1段だ。
上ったな。おめでとう。
エヴァに乗らずにドトールに行けるぞ。
ここまで書いたところで、ママンと叔母上の団らんに乱入した。おやつをたかりに行った。
「今、人間失格の(いろいろ伏せねばの沈黙)……書評を書いんねん」
「へー、読んだことなーい」
……。
叔母上、読んでない人だった。
ほら見ろ! 知恵が浅いだろうが!
ただ、うすらぼんやりとあらすじはご存じだとおっしゃる。
「先生、って人が出てきてー」
それは「こころ」だ。え、ここからまた書き直しなん?
「イケメンが、たくさんの女の人に迷惑をかける話ちゃう?」
あっている! あらすじに変えさせていただく! 読んでないのにあいすぎだろう!
大人の階段第2段は、葉蔵の心中事件。
カフェの女給と心中を図るも、1人だけ生き残った葉蔵。
起訴猶予となり、ヒラメ氏(あだ名)宅に居候をしている箇所である。
この頃の葉蔵は高等学校は追放。故郷は縁切り。兄たちからの仕送りで引きこもり生活。
ヤバいところしかない。
ヒラメ氏は子ども(私生児らしい)と骨董商を営んでおり、繁盛はしていない。
その家の2階に、葉蔵が引きこもっている。
ある日ヒラメ氏は、葉蔵に「どうするつもりなんです、いったい、これから」と問う。
このときの葉蔵の述懐。
ヒラメは、その時、ただこう言えばよかったのでした。
「官立でも私立でも、とにかく四月から、どこかの学校にはいりなさい。あなたの生活費は、学校へはいると、くにから、もっと十分に送ってくる事になっているのです」
実際に言われた言葉はこうだ。
「あなたが、もし、改心して、あなたのほうから、真面目に私に相談を持ちかけてくれたら、私も考えてみます」
エスパーか!
わかるか。何を言ってるのかわかるわけがないだろうが!
わからなかったので、葉蔵は画家になると言ってヒラメの家を出奔。
このときのことを本気でうらみがましく「あのときストレートに言ってくれたら、学校に入ったのに」とぼやいている。
まったくその通りだ。率直に言えば済む話を率直に言わないから、話がややこしくなる。
そして率直に言わないヤツほど、話がややこしくなるのを嫌うんである。
日本語でしゃべれとしか言いようが――。
ある! 太宰マジックだ!
このヒラメ氏、子どもを抱えた自営業(自宅が店舗を兼ねる)で、起訴猶予中の居候を抱えているんである。
自分があくせく働いているのに、2階にいるヤツは寝ているだけで実家から金が送られてくるのだ。
いかがだろうか。
ぶんなぐってやりたいだろう。
それを今度は「親の金で学校行かせてもらえるので、もっと金がもらえまーす」である。
ヒラメ氏、日本語で話せなくなっても仕方ない。
さらに別の可能性もある。
ヒラメ氏のおっしゃったことは、学校云々にかすりもしていない。
つまり、学校に入れというのは葉蔵の都合のいい想像で。
実際には「はたらけ」の4文字のみの話だったのではないか。
これなら、ヒラメ氏が日本語でおk状態になっても無理からざるところだ。言いづれえだろ、そりゃ。
この「人間失格」は万事こうだ。
葉蔵の迷惑人生。
すべて自業自得である。
この、すべて自業自得の物語。小説では意外と少ないんである。
転落系の主人公でも、意外とどこかで本人より運や時代や関わった人間が原因の不幸に見舞われているのだ。
葉蔵にはそれがない。
すべて本人の努力と根性で、克服できたり避けられたりする転落だ。
三十路になって「これは私のことを書いている!」ではヤバいのである。早急に生活を改めないとホントにヤバい。
ここに気づいいて生活改善を始めるのが、大人の階段2段目である。
ドトール等未来の夢を得る方向でなく。
見えている破滅を回避する。
エヴァに乗るよりヤンマーに乗るカンジで! コツコツ地道に努力する!
とか言ったところで私事である。
実は、病床のママンにうっかりこの最終回のことを話したところ……。
「読みたい」と言われてしまった。
口が軽いわたくしがすべて悪い。自業自得を描いた小説で、自身の自業自得に苦しむとは思わなかった。
なんとかよさげな終わり方をせねば、碇親子より冷え込んだ親子関係(ユイなし)となってしまう。
そういうわけで、かなり無理矢理な結び方をお許し願いたい。ハリボテ感は自覚済みだ。
この連載を愛する母に捧げます。浮草堂美奈。
よおっし! どうにか体裁は取り繕ったはずだ!
今後も、書きたくなったら書くかもしれない。
けれども連載は終了だ。
約1年半ありがとう。
そしていつもの。
「人間失格」いかが?
評価、拍手、ブクマ、ふぁぼ等ありがとうございました!
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